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宇宙から覗く人間の欲望 [読後の感想]

Google Earth が登場して、地球上のありとあらゆる場所を空から眺めることができるようになった。人工衛星が撮影した画像を切れ目なくつなぐことによって、デジタルの地球儀を手にいれたことになる。Google Earthに初めて触れたときは、まさに鳥になったような擬似的な飛翔感覚が生じたことを今でもよく覚えている。

Google Earthの仕組みは、可視センサーを搭載した商用や学術用の衛星が数多く利用されるようになり、その撮影蓄積が膨大になってきたことからこれを地図に代わる画像データベースとして提供しようとすることから始まった。写真帳を一枚一枚めくるのではなく、視点をどの方向にでもしかもどこまでも制限なく動かすことができるという、きわめてわかりやすいユーザーインターフェースを採用したことで一気にこの分野の標準となった。

「地球診断」太田弘、齊藤忠光:講談社は、Google Earthのように詳細な衛星画像を多数集めたものだが、美しいだけの単なる写真集ではない。アマゾンの密林の消失が緑の絨毯を引き裂く傷のように拡がる様子など、いま地球上で起きている環境・エネルギー、災害、戦争、貧困、などの主に人間が原因となって生じた事象が、宇宙からの画像にはっきりと刻まれていることを、それぞれの分野の専門家(22名)の解説が明らかにする。地球と人間との関係に視点を置き、事象の広がりを空間的に捉えるために、鳥の目を持つ衛星画像を有効に使っている。

本書には地球に関する多数のテーマがあげられているが、中から主なものをあげると

直線が示す保護と開発の境界:アルゼンチン・ブラジル、イグアス国立公園
美しき大氷河は環境変動の窓:アルゼンチン、パタゴニア氷原
彷徨える黄河の河口:中国、黄河
砂漠上に増殖する無数の碁石:サウジアラビア、ヨルダン国境付近
急速に融けている永久凍土:ロシア、シベリア地方
美しき山に刻まれた正円のデザイン:ニュージーランド、エグモント国立公園

画像を紹介できないのは残念だが、いずれも事実の持つ強烈なインパクトが伝わってくる。中でもイグアスの画像は、とめどない森林伐採と農地拡大の現状を表わしており、人間の欲望に限界がない証拠を突きつけられるような衝撃画像である。眺める視点が変わることではっきりと浮かび上がる事実がここにある。

地球と人間の関係に興味を持つ人には強く薦めたい。まず書店で、手にとって画像をご覧いただきたい。

なお、本書で使用されている衛星画像は2006年に日本のJAXAが打ち上げた人工衛星である「だいち」によるもので、690kmの高さから地上分解能10mの画像撮影を現在も続けている。

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中島

イグアス国立公園の写真、私は思わず目を背けたくなりました。
by 中島 (2010-10-21 20:00) 

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