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環境ビジネスにありがちな思い込み [読後の感想]

「環境ビジネス5つの誤解」尾崎弘之:日経プレミアシリーズを読んで

低炭素社会の形成というキーワードに牽引されて、環境関連ビジネスに大きくスポットが当たってきている。そうした局面で、でもその考えはほんとに正しいか、思い込みではないのかという指摘を投げかけるのがこの本である。日本の主要自動車メーカーが次々に電気自動車を市場に投入するといった目の前の事象に振り回されずに、何をどう理解すべきなのかを、グリーン・ビジネスの視点から論じている。

東京工科大学教授である著者の尾崎氏は、野村證券からモルガンスタンレー、ゴールドマンサックスなどの金融系企業のマネジメントを経験した後、ベンチャー業界へ進んだ経歴の持ち主で、ウェブサイトを拝見すると、“How Can We Promote a Green Business of Next Generation ?”と明記されているように現在はグリーン・ビジネスにフォーカスしているようだ。

さて、この本で尾崎氏が指摘する「誤解」とは、次の5つである。

第1の誤解 クリーンエネルギーは増やせば増やすほどエコである
第2の誤解 電気自動車は異業種、中小、ベンチャー企業を中心に短期間で成長する
第3の誤解 太陽光発電は「固定価格買い取り制度」(FIT)によって健全に成長した
第4の誤解 バイオ燃料は環境にやさしいエネルギーである
第5の誤解 日本の技術力は世界の水ビジネスをリードしている

「誤解」という刺激的な言葉は、読者を“掴む”ためにあえて使っているのだろう。またその内容は決して挑戦的でも挑発的でもなく、全体に落ち着いたスタイルを貫いており、言い回しも丁寧である。よくある環境問題否定を大声で繰り返す“とんでも本”とは一線を画している。逆に言うとタイトルで少し損をしているかもしれないが。

著者が繰り返して述べていることは、グリーンの分野で失敗しないためには、思い込みで思考停止に陥らないことのようだ。日本の多くの不勉強なメディアの挑発に踊らされず、本質をきちんと聞き分けられる常識を持つべきだと説いている。

この分野の著作は、両極に振れているものが多く、読むべき本を選ぶのがやさしくないのだが、この本はグリーンをビジネスとして取り組もうとしている人には薦められる。ただし、本の構成としては、グリーンというキーワードでつながってはいるものの、必ずしもしっかり体系づけて書かれているわけではないように思うので、全体にこだわらず興味のあるところだけ切り取るように読んでも、十分に活用できるのではないか。

「誤解」の詳細については、ここではあまり触れないが、それぞれの要点を私なりにまとめるとこうなる。

第1誤解:エコと唱えるだけで豊かな未来が来る。わけがないよ、そりゃ。汚いエネルギー(化石燃料)を使うのを早く止めないと大変なことになる。かもしれないけど、もっと大事なことがあることを気づいてほしい。

第2誤解:EVになると、一般的な電気・電子部品組み立ての産業になるので、日本の競争力は急速に低下する。はずがない。なぜなら人命を運ぶ道具が担う責務は果てしなく重いから。それでも競争環境は大きく変化するし、なにより戦略それも国レベルの戦略が鍵。

第3誤解:太陽光発電にFITを導入して、欧州各国は大きな便益を享受した。ことになってはいるが、政策で強引に誘導したのでプラスもマイナスもある。市場を形成できたことは功績、加速が急すぎてバブルになったことは失敗。安易な批判や盲従だけはやめよう。

第4誤解:とうもろこしから生み出されるバイオ燃料が環境問題解決の決め手になる。なんてホラは誰が言ったんだ。森林破壊と穀物転換を加速させ、食料価格高騰まで引き起こした責任があいまいなまま、解決策が見いだされていない。もちろんバイオすべてがだめなのでもない。

第5誤解:膜技術に競争力があるのでこれから国全体で体制を組めば水ビジネスで海外に市場を求められる。かもしれないが、まず施設設置から運営までの経験が国内には決定的に不足。いまのところ官(地方自治体)にしか存在していない運用ノウハウを民間と重ね合わせることで人材やノウハウ提供のサービスの輸出ができるかどうか。

グリーン・ビジネスは、どうしても声の大きな「誰か」が引っ張りがちだ。そうした局面にこそ勢いに流されずに、いや待て本当にそうかと疑問を投げかけ、しっかり考えることのできる構えを作ることが大事だと著者は主張しているように私は受けとめた。

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