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かまどの煙が目にしみる [新聞記事]

The village of Pipal Kheda, India, with a haze from early-morning cooking fires. by Adam Ferguson for The New York Times
「高き屋に のぼりて見れば 煙(けぶり)立つ 民のかまどは にぎはひにけり」

訳) 仁徳天皇が、高殿に登って国のありさまを見わたすと、民家のかまどから煙がたちのぼっている。民の生活が成り立っていることをうれしく思う。

かまどの煙が活況の証しというエピソード。確かに北の独裁の国のように煙さえ立ち上らないよりはいいにきまっている。問題はこれが現代の場合、かまどの煙にも十分な配慮が必要だ。ニューヨークタイムズ紙(2月22日)に掲載されたコラム”A Stopgap for Climate Change” by Elisabeth Rosenthal を読んで考えさせられた。なお、Stopgapというのは、当座の手当とか対症療法といった意味である。

世界中で続発する異常気象の原因が二酸化炭素に代表される温室効果ガスの増加に起因していることを否定するかどうかの議論ではなく、どうやって対策を講じるのかなのだがこれが容易ではない。

従来の化石燃料依存型の社会の仕組みを全体としてクリーンなものに変えていくというのは、大規模なインフラの作り換えでもあり資金や技術の問題も含め、世界のどの国でも決して容易な課題ではない。しかも面倒なことは解決すべき相手が大気であることで、一度放出された二酸化炭素は仮にいま世界中で同時に削減が実行されたとしても、おそらく数十年間は大気中に滞留し続けるので、努力の果実をすぐには手にできないのだ。こうしたもどかしさを指摘して、なぜいまこういう厳しい状況下で大きな社会的制約を求めるのかという先送り論が必ず現れる。(それって日本の年金問題と同じなんだが...)

ここに新たに国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)による共同報告"Integrated Assessment of BlackCarbon and Tropospheric Ozone" がもたらされた。この報告の中で、温室ガス削減に向けた全地球的な努力は継続するが、その一方で即時性のある施策を講じるべきだという提言である。つまり、漢方薬的な腰を据えた治療も必要だが、まずは出血を止める手(絆創膏など)を打つべきだという。

特に、途上国で急速に深刻化している大気汚染による人体への危害を取り除くこと。その原因である「煤煙」と地表面の「オゾン」を直接に抑制することで、環境面での即効性が期待できるし、これが温暖化に対しても有効な施策となるという。

煤煙は工場から不完全燃焼の排煙として排出されるもの、ディーゼルエンジンから排出されるものもあるが、途上国の多くでは家庭の熱源として木、炭、油が大量に使われるため、炉(かまど)から大量の煤煙(すす)が放出されている。これが人口集中地区では深刻な呼吸器疾患を生み出し、女性や幼児などの弱者がその被害を最も多く被ることになっている。

一方、オゾンはメタンや一酸化炭素が太陽光を受けることで生じるが、これらのガスは自動車や下水廃水から出るので煤煙よりさらに産業との関連が強く、スモッグを形成して都市生活者に深刻な肺障害を引き起こす。

UNEPの報告は、これらのターゲットに対して次のように結論づけている。
「煤煙とオゾンの二点に絞り込んだ排出削減こそが、気候、健康、水、食糧、そして地球のエコシステムを即座に守ることを可能とする」

既に幾つかの途上国ではこの削減に取り組んでおり成果も上がりつつある。煤煙については、炉をクリーンなものに順に切り替えていくことや脱煙装置をディーゼル車に装備させることを徹底させる。オゾンについては、畜産業から石炭採掘まで広い範囲にわたって、とにかくメタンを生じさせるような原因を徹底して除くこと。地道だが効果は実証されているという。

かまどの煙が目にしみるのは、地球温暖化への警告か、はたまた...


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