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北京の空は澄んでいるか [新聞記事]

2008年夏の北京オリンピックが始まる直前に、大気汚染の競技に及ぼす影響が深刻なレベルにあると予想されたことから、マラソンへの出場を取りやめた選手がいたことが話題になった。それくらい、開催を目前に控えた北京の大気汚染の状況は悪かった。私は、オリンピックのほぼ一ヶ月前に北京を訪れていたのだが、連日のように薄い霧が街を覆っており、長時間外にいると目が痛くなる経験をしたこともあって、これじゃオリンピック本番も大変だなと心配した記憶がある。ところが、オリンピックになると、突然に、抜けるような北京の青空がもどってきていた。市内に流入する車の台数を抑制したり、北京周辺の工場の稼動を制限したりしたらしいという話しは後で聞いたが、とりあえずそのときはクリーンなイメージを持つオリンピックとして、一応形が繕えていたのではないだろうか。

そんな大気汚染の記憶がまた呼び戻された。11月26日のニューヨークタイムズ紙の記事 ”A 'Crazy Bad' Day in Beijing" である。北京の大気汚染が深刻な状況にあるという内容だが、その状況をモニターしているのが中国政府ではなく、北京の米国大使館であることが注目だ。以前から、中国政府が公表する大気汚染の数値は実態よりかなり低めに調整されているのではないかという疑問が投げかけられていた。中国政府は、これまで北京の大気汚染は依然として続いてはいるが、基準をおおむね下回っており、しかも晴天日数は一貫して増加していると説明してきていたのだ。

これに対抗するというわけではないのだろうが、米国大使館が1年前から大気の汚染状況を独自に計測し、その結果をリアルタイムに公表し始めた。しかもTwitter(@BeijingAir)を用いて、一時間ごとにPM2.5とオゾンの数値とその数値が意味する健康への評価尺度(GoodからHazardousまでの6段階)を加えて「つぶやき」続けている。この目的は、北京駐在の米国コミュニティへの便宜をはかることとしているので、中国政府に何かを発信しているわけではない、らしい。

PM2.5という数値は、微小粒子状物質の中で粒径が2.5ミクロン以下のものが大気一立方メートルに占める数のこと。この値が、環境汚染の指標として近年とくに重要視されており、ぜんそくや肺がん、心臓病などの健康被害の原因と指摘されている。これまで大気の主要な汚染指標の一つとしされてきた粒径10μm以上の浮遊粒子は、大部分が鼻の粘膜に吸着されて肺まで達することはないのに対し、それよりも小さい粒子は気管に入りやすいといわれ、最初に米国で環境基準が設定され、日本がそれに続いている。

11月19日にそのモニターの数値が500を超えた。WHOの環境基準値の20倍!である。この値をみて、Twitterへの情報発信担当者が評価尺度を ’Crazy Bad' といじってしまったらしい。これで、大騒ぎになった。記事を書いている Elizabeth Rosenthal 氏も1997年から6年間北京に駐在していたことがあり、他人事ではない想いでいたのだろう。当時北京に同行していた Rosenthal 氏の子息は、深刻な喘息に悩まされていたが、かの地を離れたとたんに快癒した経験も持っている。

冬の殺人スモッグが街を襲うという話しは、半世紀以上前(1952年)のロンドンのことだ。1万人を越える市民が硫酸霧に侵されて死亡した悲惨な記憶が残っている。これが少し遅れて米国やドイツに広がり、日本も昭和40年代にかけて四日市などの主要な工業都市がスモッグに覆われた。こうした現象は、工業化を急速に進める新興国が避けて通れない道のひとつだという意見に、少なくとも日本人は、組みしてはいけないだろうが、それにしても事態は容易ならないところに至っているように感じる。日本政府があるいは産業界が、即効性のある改善策を中国に提示することはできないだろうか?それとも、それはよけいなお世話なのか?

'Crazy Bad' という記述で大騒ぎになったためか、大使館ではしばらく後にその指標を 'Beyond Index' に修正した。確かに、500以上の数値は想定外だったのだ。でも、 クレージーという言葉も、冗談というより深刻な実感だったのだろう。実は、ニューヨークタイムズの記事を読んでから、@BijingAirをフォローしている。数値の上下に一喜一憂というのもおかしいが、ときどき眺めるTwitterのタイムライン上にかの地の汚染状況が見えるというのは経験したことのない不思議な感覚だ。世界と日本がここでもつながっているということなのだろう。

冬の北京は風が止むと一層冷え込み、冷気がさらに重くなり汚染物質も滞留しやすいらしい。健康に深刻な影響が出るのはこれからではないだろうか。Rosenthal 氏が言うように、中国政府の北京に住んでいる幹部には小さな子供や孫もいるだろうに、この家族に迫る危険に対して、いったい彼らはどう感じてているのだろうか。

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