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地球は寒くなっていく? [読後の感想]

「眠りにつく太陽」桜井邦朋、2010、詳伝社新書を読んで

週間朝日12月3日号の書評「新書の小径」で、谷本束氏が「眠りにつく太陽」を、“地球は寒くなっている”というサブタイトルをつけ、「本書を読んで驚いた。温暖化どころかこれから地球はどんどん寒くなるという。本当か。」と桜井氏の結論を、気候変動に対する“他の仮説”だが非常に説得力があると紹介している。ということで、早速読んでみた。が、残念ながら谷本氏とはかなり違った印象を持った。

太陽活動についての基礎をとりあえずあげておくと...(昔取ったなんとやら)

1.太陽は、ほぼ11年の周期でその表面に発生する黒点が増減することが知られている。
2.太陽活動の活発な時期に黒点が多く生じ、活動が穏やかな時期には黒点の発生は少ない。
3.1645年から1715年にかけての70年間は、黒点が著しく減少したことが知られている。
4.この期間はマウンダー極小期と呼ばれるが、ヨーロッパや北米などの温暖地域において気温が低下していた時期と重なっていたため、太陽活動の低下と寒冷化現象との結びつきを指摘されている。
5.黒点の発生は2007年に活動の極小に至り、再び次のサイクルに向かって活発化すると目されていたが、これが数年遅れただけでなく、活動はその後徐々に活発化しているものの、これまでになく静穏な状況が続いている。

太陽活動がおかしくなったのか?ということから、すわこれが寒冷な時代の始まりか!という展開になっているということを前提として以下の感想をまとめたい。(これは学術ブログではなく、読後感想ブログですよ)

桜井氏は、太陽活動が地球の気象に及ぼす影響についての研究から、太陽活動が穏やかになると地球が寒冷化する可能性があると指摘し、現状の太陽活動はまさに「眠りにつく」寸前であり、この状態が長く続けば再び小氷期が到来するだろうと述べている。この仮説に至る論理の組み立ては省略する(というかできません)が、この説が「不機嫌な太陽:気候変動のもうひとつのシナリオ」スベンスマルク、コールダー著(2007年)、桜井邦朋監訳:2010年恒星社厚生閣にかなり影響されているのは間違いないように思う。(こちらは立ち読み程度にしか読んでないのでえらそうなことは言えないが)

この説のポイントは、太陽活動が弱まると地球に降り注ぐ宇宙線が大幅に増加し、そのため大気圏の空気のイオン化が進み雲凝結を促進し、これが太陽光を反射するため大気を冷やすというところである。太陽活動の低下によって太陽光そのものが低下する影響は少ないとしており、寒冷化の原因を飛来する宇宙線の増加に求めているところが特徴だ。

なるほどそんな考え方もあるかなとは思うが、地球の大気現象はそんなに単純だろうか。地球の現象を複雑にしている大きなポイントは、地球が水惑星であることだ。最も比熱の大きい水が地球表面の大半を占めていることで熱的に大きな緩衝効果を持つことと、二酸化炭素などの可溶性ガスを吸収できる巨大な液体の貯蔵庫であることが外部からの影響がどのように伝わるかを考慮するときに重要なはずだし、その機構は複雑で全容の解明にはほど遠い。

さらに桜井氏は、二酸化炭素の増加と地球の温度変化の関連は観測からほとんど認められないし、大気の微量成分にすぎないことからも重要でないとしているのだが、このあたりは繰り返し読んでもみてもなかなか納得できない。(素人にはわからないと一喝されそうだが)

もちろん、桜井氏の仮説を間違っているといっているのではないし、かなり長期的にみれば太陽の活動が地球に影響を及ぼしていることは間違いのない事実だと思う。特に、17世紀ころに生じた寒冷な気候の時代は太陽活動の停滞と結びついていたと考えるのが正しいように思う。しかしそのことと、人間が産業革命以降に、爆発的に化石燃料を燃やし続けてきたことの影響を軽んじることは、まったく別のことであろう。

谷本氏は新書の小径のなかで、「温暖化への疑念を口にするとひどいヤツだみたいな空気まである」と述べているが、それはこちらの台詞だ。「眠りにつく」とか「不機嫌な」とかの扇情的なタイトルをくくりつけて、あまたある仮説の一つをことさらに大きく取り上げてしまう出版サイドに問題はないのか。取り上げた桜井氏の著書の記述は、この分野の専門家としてかなり控えめであり、決してセンセーショナルではないのだが、「本当か」と飛びついた読者にはそのあたりの配慮はほとんど目に入らないのではないか。

太陽の様子がいつものようではないというのは、どうやら本当のようだ。かといって、目の前に人類の滅亡がきているということでもなさそうなので、そうした現象が生じたとしてもそれに対応する知恵をこれからひねり出すのがわれら人間の役目だろう。文明化と共に加速される人間活動によって生じる危険を察知し、策を講じていくしかない化石燃料の問題もこれと変わらない。




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