SSブログ

反原発の市民科学者 高木仁三郎 [論文を読んで]

「私は耐震建築の専門家でも地質学の専門家でもないが、電力会社や政府の委員会に属する専門家の人たちが『原発は地震に対して絶対に安全』と断言することに、かねがね疑問を抱いてきた」という文で始まる高木仁三郎氏の論文『核施設と非常事態 ―― 地震対策の検証を中心に 』にはじめて接した。1995年の日本物理学会誌Vol.50,No.10に掲載された学術論文である。たしかに論文ではあるが、書き回しに専門用語はほとんど使われず、しかもわかりやすく表現しているため一般の人でも抵抗なく読み進めることができる。1995年の1月に発生した阪神大震災の後に、原発の耐震設計に疑問を感じ、物理学者として強烈な、ほとんど叫びといってよいくらいの、警告を発していたのだ。

読み進んでいって、愕然とした。福島第一原子力発電所で起きている事故の全貌がほぼここには記されているではないか。事故の前に、危険を的確に指摘していたことにも驚くが、なにより16年もの間この警告は顧みられず黙殺されていたことに戦慄せざるをえない。見えていても、聞こえていても刺激には反応せず、思考回路は動かない。日本の科学技術とはこの程度のものだったのか。

AERA2011年7月11日号の特集記事「高木仁三郎と宮沢賢治」に導かれてこの文章にたどりついたのだが、原子力発電の持つ本質的な危険を、継続して訴え続けた在野だが科学者の孤高の姿がここにはあった。

論文では、「耐震設計の考え方」「活断層について」「老朽化と地震」「原発の非常時対策は?」「他の緊急事態は?」という章立てで組み立てられており、それぞれに論考を行っている。すべては紹介できないが印象的なところを以下に示したい。

「耐震設計の考え方」
この年の阪神の地震で、神戸で800ガルを越える加速度が観測され、それまでの耐震基準を満たしていたはずのビルなどの構造物が多数破壊されたことから、従来の原発の地震に対する設計基準の見直しが当然あるべきなのだが、頑なに原則は変わらないとして譲らない。高木氏は「行政側にも事業者側にも原発の安全性を見直して、この大災害をよい教訓にするという姿勢が少しも見られなかった」と驚きを隠さない。

「老朽化と地震」
高木氏は、耐震設計の問題とは別に気になることとして老朽化を第一にあげている。その中で「老朽化原発が大きな地震に襲われると、いわゆる共通要因故障(一つの要因で多くの危機が共倒れする事故)に発展し、冷却材喪失事故などに発展していく可能性は十分ある。-中略- もし、制御棒がうまく挿入されないような事態が重なれば、暴走事故にもなりかねないのである。」と述べており、福島の事故がここにはっきりと見通されている。

「原発の非常時対策は?」
設計の基準のことはさておき、損傷を受けてしまった後の対策を考えておくのが現実的だとして「国や電力事業者は、『原発は地震で壊れない』ことを前提にしてしまっているため、そこから先に一歩も進まず、地震時の緊急対策を考えようとはしない」と厳しく断じ、さらに「仮に、原子炉容器や一次冷却材の主配管を直撃するような破損が生じなくても、給水配管の破談と緊急炉心冷却系の破壊、非常用ディーゼル発電機の起動失敗といった故障が重なれば、メルトダウンから大量の放射能放出に至るだろう。もっとも穏やかな、小さな破断口からの冷却材喪失という事態でも、地震によって長期間外部との連絡や外部からの電力や水の供給が絶たれた場合には、大事故に発展しよう。」と予測している。ここには津波のことが書いてないだけで、あとはそのまま福島で起きたことが書いてあることに誰でも気がつくであろう。また、原発サイト内の使用済み燃料のことや、集中立地(福島や敦賀)にも触れ、もし大きな地震に直撃されれば「どう対処したらよいのか、想像を絶する」とも述べている。

「他の緊急事態は?」
ここでは、地震以外への備えについて論じており、その中には津波も入っている。そして、これまでは「そのような事態を想定して原発の安全や防災対策を論じることは、『想定不適当』とか『ためにする論議』として避けられてきた」とも述べている。

高木氏は直腸癌で2000年に亡くなられているが、もし福島の事故を目の当たりにすることができたとすれば、どんな感想を持たれただろう。氏の「偲ぶ会」で読み上げられた「最後のメッセージ」は次のような深刻な疑念の言葉でしめくくられている。

「原子力時代の末期症状による大事故の危険と結局は放射性廃棄物が垂れ流しになっていくのではないかということに対する危惧の念は、今、先に逝ってしまう人間の心を最も悩ますものです。」
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

-

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。