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発明は必要の母 [読後の感想]

「なぜ東大は30%の節電に成功したのか?」江﨑浩、幻冬舎経営者新書を読んで

実は、東京大学は東京で最もエネルギーを消費する集団だった。3.11によって生じた電力危機、直後の唐突な計画停電と、さらに夏に向けて節電要請が政府より行われる中で、電気大喰らい組織の東京大学が行動を起こした。この本の著者江﨑浩氏(東大大学院情報理工学研究科教授)は、ITによる省エネを実証するため地震の前に編成されていた東大グリーンICTプロジェクト(GUTP)の代表として活動していたことから、震災直後に設置された学内の電力危機対策チームの中核となった。この本は、大震災からたった3カ月で30%節電を達成してしまった秘密を詳しくしかもわかりやすく明らかにしており、これからの日本のエネルギーを考えていく中で多くの示唆を与えてくれる。

江﨑氏は、WIDEプロジェクトなどで日本のインターネット黎明期からその領域の中心で活動してきた、いわゆるIT系の先頭を走ってきたともいえる経歴だが、その新しいフォーカスがエネルギーというのは時代の流れを映しているようで大変に興味深い。エネルギーに関わるようになる最初のきっかけは、ビルのエネルギーマネジメントにIT、特にネットワーク技術を導入する試みからだったようで、ネットワークのオープンな発想と仕組みを電力制御の世界に持ち込むことでスマート化を実現している。おそらく、電力エネルギーの世界に育ったヒトにはなかなかなじめないアプローチなのだろうが、ここが江﨑氏の本質的な強みになっているのだろう。

学部レベルからすぐに全学の省エネに取り組むようになり、小宮山学長(当時)から「東京大学が節電をするからには、単に省エネを実現するだけでなく、新しい産業を創り出すべき」との難しい命題を与えられたという。ここで氏は、これこそ「発明」が「必要」を創り出すということだと理解した。普通は「必要は発明の母」だから、まったく逆の発想なのだが、インターネットにみるようにこれまでとまったく異なるテクノロジーが誕生した場合には、「発明は必要の母」になるのだという。つまり「イノベーション」が「ニーズ」を生み出すのだ。もっと言えば技術の「不連続」こそが新しい産業を生み出すということだろう。緩やかに改良され効率が改善されていくのは「連続」であり先を見通すことは誰にでもできるが、逆にそこに住む人には見たことのない不連続を創り出すことは決してできない。
※ちなみに、この逆転発想は、技術史家のメルヴィン・クランツバーグ(Melvin Kranzberg)がその第二法則で、「発明は必要の母である」(Invention is the mother of necessity.)として示している。

江﨑氏は、この本の中で、「節電がイノベーションにつながることを確信した」とし、まさに発明が必要を生み出したとしており、さらに次のように述べている。

これまで、多くの企業で節電は「総務部が経費を節減する」ために行われ、事業部がしぶしぶ従うものだと考えられてきました。つまり、「我慢」「忍耐」「縮小」を基調とした節電です。しかし、私は、節電こそ、「知恵」「創造」「成長」を目的に、「事業部が率先して取り組むべきポジティブな仕事」なのだと考えています。(中略)効率化とは、「同じエネルギー消費でより多くの収益を生む」というイノベーションに他なりません。

GUTPの立ち上げから震災後の電力対策までの詳細を、ここで紹介することはできないが、エネルギーに興味のある方にはぜひ一読をお勧めする。先に示したイノベーションの捉え方や、「見せる化」という言葉で代表されるように、テクノロジーに依拠して情報をしっかり公開すべきという主張など考えさせられるところが多い。オープン化こそが、組織の抱える課題を克服できるという意見はきわめてわかりやすいし、腑にも落ちる。隠したくなるのをこらえ、勇気を持って先頭に立てということなのだ。






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