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地震リテラシーが高くない理由 [雑誌記事]

「大地動乱の時代にどう立ち向かうか」鎌田浩毅教授インタビュー、アエラ臨時増刊 No.18,2012.4.25号より

京都大学の鎌田教授がアエラのインタビューに答えている。重要な指摘や示唆に富んでいる。多くの人に伝えるべきと考え、ここにその概要を紹介したい。

3.11でM9の巨大地震が東日本を襲ったが、これは「幕開け」であった。3.11自体も「現在進行形」、すなわちM9の地震を起こした震源が広がり、二次的な大きな地震の連鎖をおそらく生むという。これは地震学の範囲のなかで予測できる事態だが、一方で「想定外」の事態も起きているという。

「いままでも、あやふやな知識はあったんです。首都圏には活断層だったり、プレートだったりと地震を起こしやすいものがあると。・・中略・・調べれば調べるほど、震度7を引き起こす危険な因子が見つかってくる。・・中略・・ことほど左様に、調べるほど、地震が起こりやすいこと、起きた場合に揺れが大きく、危険性が高くなることが分かってきたんです。」

「地球で起きる現象のすべてが科学で予測できるわけではないことが分かった。・・中略・・地震に伴う破壊現象は、いくら研究しても分からないことが『分かった』。地震にまつわる科学の最終目標は、地震を予知することでした。でも、地震を予知することはもはや絶望的です。」

ここまで、はっきりと白旗を揚げてしまうと、むしろすっきりする。いさぎよい。「本当は分からないということが良く分かった」というのは、(どこかの大臣が無知の知であることを認識しているからまだよしとするという件を思い出すが...)いずれ「分かる」かもしれないので「分かる」ことを期待してくださいと、議論を先に送るよりはずっとよい。

例えば、3.11の後、TV等のメディアでは、地球表面のプレートが別のプレートの下に潜り込み、耐え切れなくなって跳ね返るのが地震だと繰り返して説明し続けている。メカニズムとしてとてもわかりやすいが、それは一つの仮説に過ぎないことに気づかなければならない。あまりに単純化しすぎているため、わかったようなつもりになり、その結果思考が止まる。言われることを鵜呑みにする。これが一番のリスクだと思う。

地震の研究を進めることで、少しづつ現象の本質に近づいてはいるのだろうが、遠くない将来に天気予報と同じように地震の予測ができるようになるという発想はもう捨て去るべきだろう。東南海地震が切迫しているらしいという科学上の一つの仮説が、政策的な道具として利用され、その後見直しが行われないままに中途半端な予知神話を生み出したのだ。研究に携わっていたほとんどの人がその砂上楼閣の危うさに気づいていたのに、誰もそのことを指摘しなかった。あるいはその声が社会の表層にまで届かなかった。これはもう、原発安全神話の地球物理版と言ってもよいのではないか。鎌田教授のインタビューを読んでその感を深くした。

「大地動乱時代に入った状況の中で、地震に対する知識の不足は深刻です。普通の人は地震についてほとんど何も知らないですから。・・中略・・地震とか火山のリテラシーは中学生レベルでとまってしまっている。・・中略・・地球科学には『池上彰』がいないのです。」

池上彰がいないという指摘はすごいと思うが、地震リテラシーが中学生レベルというのは正直買いかぶり過ぎだろう。現実は、もっとはるかに低いところをさ迷っているはずだ。メディアが煽り立てる、「震度7の地震が発生する確率が○%に上昇」という類の情報の連発に、ただおたおたするばかりではないか。

「戦後の高度成長の間、日本に大きな地震がなかったというのは、ラッキー以外の何ものでもないのに、地震が起きないのが当然だと思ってきた。特に首都・東京には地震はなかった。だからこそ摩天楼ができてしまった。・・中略・・こんな場所に政治も経済も、文化も人間も一極集中している事態は異常です。首都圏機能移転は無理にしても、分散する必要はある。」

鎌田教授は、そんな日本でも絶望する必要などないと説く。恐怖だけを煽るのではなく、恵みも一緒に伝えることが大事だという。そのためのキーフレーズは「長い恵みと短い災害」。地震が起きてもせいぜい数十秒とか数分で、その時間をしのげば、あとは100年とか、千年とかの恵みを次世代は受け入れられると考える。なるほど、これは考え方の問題だ。不幸な運命のみを呪うのではなく、その後の長い長い幸福に思いを至らせるべきだというのは納得できる。だから、「地震が起きている短い時間をとにかく死なないようにすればいい」という。これは箴言だ。こうした「見方を変えて前向きに」という鎌田教授の意見には強く同意する。

「日本人のDNAには、本当にいろいろな自然現象が刻み込まれている。縄文時代以降、たくさんの地震もあれば噴火もありました。それを上手にやり過ごす知恵。噴火が来たら逃げる。収まったら、戻ってきて畑を耕す、・・中略・・国土が狭いとか、資源がないとか、ずっとネガティブメッセージばっかりを受け取っていますが、ポジティブな面も多い。・・中略・・農業、漁業ができ、いろんな農作物、豊かな海産物があるというのは、日本が変動帯で、変化に富む四季があり、大陸のように固定した地盤や気候じゃないことの賜物です。」

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