SSブログ

iPhoneが売れるほど米国の貿易収支は悪化する [新聞記事]

The Wall Street Jounal 2010,12,15 "Not Really 'Made in China'"から

貿易収支の巨大な赤字を抱える米国にとって、ハイテク機器を開発し世界市場に投入して普及させることが、苦境を克服する策の一つであるはずと誰もが考える。ところが、ADB(アジア開発銀行研究所)の2人の研究者のレポートは意表を突く結果を示した。彼らは、米国を代表するハイテク機器としてiPhoneを取り上げた。2009年に米国内で11百万台が販売されており、これが中国の製造会社から1台あたり179ドルで米国に輸出されているので、その総額は20億ドル。製品を構成する部品の中には米国の企業によるものも含まれるが、わずかしかなく、差し引きの収支上では19億ドルの貿易赤字になる。

iPhoneを作れば作るほど、売れれば売れるほど、米国の貿易収支が悪くなるというのは、どこかおかしくない?とすぐに気がつく。例えば、日本が産油国から重油を輸入し、これを石油コンビナートにおいて精製分解して多様な化学製品を製造した後にこれを他国に輸出するのであれば、手に入れた原料に多くの付加価値を乗せているので販売価格がまさに輸出額だといってもどこもおかしくはない。これと中国の輸出勘定の不可思議さとの違いはどこにあるのだろう。

Appleから見れば、iPhoneの最終工程を担う中国の工場は、世界中から吟味して集めた上質の材料の単なる「組み立て」しかしない工場であり、対価として組立工賃しか渡していないというのが正しい感覚であろう。

iPhoneを構成する部品を原価構成比率でみると、東芝がフラッシュメモリやディスプレイモジュール等の合計で33%、サムソン(韓)がアプリケーションプロセッサとSDRAMで13%、インフィニオン(独)がカメラモジュールやGPS等で16%などとなっているのに対して、組み立て費の比率はわずか6.5%にすぎない。

確かに安心してまかせられるほどのスキルと体制を持っているからこそ大量の組み立てを委託しているのだろうが、それが輸出統計上では、中国から米国への輸出物として大きな顔をして現れる。二国間の取引の現状を表わす貿易統計の考え方が現在の多国籍モノづくりの実像を正しく表わさなくなっているということである。

だから米国の貿易赤字は心配し過ぎなのだという飛躍にはつながらないにせよ、表面に出ている数値には常に留意が必要だということにはなるだろう。これについてWTOのパスカル・レイミーは、製品を構成する部品ごとの貢献値が正しく把握できるようになれば、2,269億ドルに及ぶ米国の対中国貿易赤字はほぼ半減するだろうと述べている。

iPhoneの発明者も製造プロセスの設計者も、そしてもちろん販売もApple社がやっている。ITを最大限活用したハイテク機器だが、部品は原則としてすべて調達可能なものを使うことで開発期間の短縮と開発費の圧縮を競争力としている。一方で誰でも作れる可能性を残しているために後発者が追いつけない「何か」の強化に徹底集中する。それは、品質と製造原価の両面で優位性を維持すること。すなわち、開発から部品調達、組み立て製造そして運送にいたるすべてのサプライチェーンを、世界中の一番優れているものをかき集めて構築することにある。

ADBIのレポートでは、iPhoneの粗利がかなり厚い(原価178ドルの製品を500ドルで販売)ことと、わずか6.5%(178ドルの)でしかない組み立て工賃を指して、なぜ米国国内ではなく中国へ移転させるのかと(米国内で雇用を生み出す機会を失したという点)疑問を投げかけている。しかし、このあたりのことは、AppleがMacの行き詰まりをiPodで打開しようと挑戦したことが見事に功を奏し、その結果としてスマートフォン分野に満を持して参入したという事業上の戦略展開の手順も読み込まないとなかなか見えてこない。

戦略の誤りで、つぶれていたかもしれないAppleが、確かに今は勝者だが、追いつかれ足元をすくわれる恐怖と戦い、ひたすら「何か」を追求し走り続けている。我々も、SonyがなぜiPodを造れなかったのかなどと死んだ子の歳を数えるのはいいかげんにして(反省も大事だが)、自分たちの「何か」を造る作業にとりかかるべきではないか。

nice!(0)  コメント(1)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 1

田二谷正純

ADBIのレポートが引用しているiPhoneの原価構成の元はこれです。

Rassweiler, A. 2009. iPhone 3G S Carries $178.96 BOM and Manufacturing Cost, iSuppli
Teardown Reveals. iSuppli. 24 June. http://www.isuppli.com/TeardownsManufacturing-and-Pricing/News/Pages/iPhone-3G-S-Carries-178-96-BOM-andManufacturing-Cost-iSuppli-Teardown-Reveals.aspx
by 田二谷正純 (2010-12-21 09:13) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

-

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。