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地球にとってのエネルギーのベストミックス [雑誌記事]

「原子力とエネルギーの未来」ニューズウィーク日本版 2011年2月23日号
副題:"The Best Mix" by William Underhill, 藤田岳人より

その国のエネルギー政策の舵取りをどうするかがますます大きな政策課題となっている。エネルギーは国の繁栄を支える鍵であり、一方で環境とのバランスを考えない政策の選択もありえない。我が国のメディアはなぜか環境に関するCOPなどの国際会議の動向が大変に気になるらしく、これに関連する記事は多いのだが、ところでエネルギー政策の趨勢はどうなっているだろうといった俯瞰的な視点からの突っ込みは驚くほど少ない。もしかすると、知られたくない的な誘導がどこかにあるのではないかと勘ぐりたくなるくらいなのだ。そうした意味でこのエネルギー特集は全体のバランスもまあまあで、いいまとめになっていると思う。原文がNewsweekのサイトにあるかと探したが見つからないので、どうも日本版の独自記事らしい。拍手。ただ、日本のニューズウィークのサイトでは全文が掲載されることは(たぶん)ないので、興味ある方は店頭からなくならないうちにお読みください。以下は、自分の勉強もかねた要約あるいは超訳。

取り上げている国は、サウジアラビア、ブラジル、デンマーク、日本、アメリカ、フランス、イギリス、ドイツ、スウェーデン。新興国はブラジルしかないのが残念で、特に規模と成長スピードの大きい中国とインドには言及してほしかったところだ。エネルギーミックスの現況を表わす国ごとの対比資料には、この両国やイラン、オーストラリア、UAE、ロシアが入っているので参考にはなるのだが。

産油国であるサウジは、エネルギーが有り余っていることが最大の不安要因であり、国民の思考停止をもたらしているととらえて、いまこそエネルギー転換を進めるべきと考えている。超の付く石油依存から再生可能エネルギーと原子力への転換に膨大な投資を開始した。やがて化石燃料の枯渇するであろう近未来に、その昔砂漠の中に石油で一時栄えた国があったと言われないために。

ブラジルは、国の成長に不可欠なエネルギーを豊富な水資源に頼ろうとして環境破壊を拡大させている。エネルギー開発の遅れを産業成長の足かせにはさせないという政策なのだが、どこまでが許される限度なのかは難しいところだろう。新興国では、成長そのものが目標になりがちであり、それが達成された時には国が滅んでいなければよいのだが。森林に代表される豊かな環境を、減っているとはいえ、未だ大量に保有しているだけに課題は大きい。成長が続く新興国すべてが持つ深刻な問題だといえるだろう。

欧州の先進国でも、国によってエネルギー政策が大きく異なる。デンマークは、資源のない国として、まずエネルギー安全保障を最優先として、リスクの大きい石油への依存を避けた。その結果、半分を石炭、残りを天然ガスと風力・バイオマスなどの再生可能エネルギーとしている。原子力発電は環境政策上選択していない。ところがその隣国のスウェーデンは環境政策上から化石燃料の利用をほぼ廃しているが、水力と原発がそれぞれ半分を占めている。

豊富な国内の石炭を活用した産業革命の旗手であるイギリスとドイツは、たどったルートは異なるものの、現在は石炭石油への依存を急速に低下させる環境重視の政策を選択している。一方で原発への抵抗感もあるが、一時のような生理的拒否といった状況ではなくなりつつあるようだ。

欧州で際立っているのがフランスで、電力の8割を原発に依存している。70年代のオイルショック時に脱石油の方策として選んだのが原子力であり、やるからには世界一を目指すことが産業政策にもなると考えた。原子力には二の足を踏む国が多い中でこれを最大のチャンスと捉えたのだ。その結果自国での利用を大きく上回る電力を原発が生み出しており、周辺諸国に電力を輸出している。環境重視で原発を嫌っているはずのドイツがフランスから多量の電力を輸入しているのは不思議な構図である。

そしてアメリカである。とにかくエネルギー消費量が桁違い(といっても中国と肩をならべているのだが)。アメ車はガソリンをがぶ飲みするように作られているというのは、少し前の話だとしても、大量消費を礼賛するような風土はあまり変わってはいない。それを支えるのは国内産の石炭と天然ガスが豊富にあるという、なんといっても資源大国の強みである。安い資源で安い電力を生み出し、産業の競争力を支えるという構図を変える必然性はあまり見当たらない。欧州主導の京都議定書の枠組みに加わりたくないというのもある意味当然であろう。中にはカルフォルニア州のように低炭素社会への移行を目指している地方政府もあるが、国全体としてみれば環境配慮型の政策に進みつつあるとは言いがたい。環境よりもいま大事なのは景気だ雇用だと叫ぶ声が一層強くなっている。いかにも米国らしいと言えばそのとおりだが。

われらが日本はといえば、原子力を除いたエネルギー自給率は4%。オイルショック時の石油依存80%の状態から転換を進めてその比率は大きく減少したものの、昨年発表されたエネルギー基本計画では、2030年までに再生可能エネルギーを含めた非化石電源の比率を70%にまで伸ばす目標が示されている。現状からみると困難な目標ともみえるが、他の先進国に比べて電力供給が完全には自由化されていないことが政府の政策を進めやすくしており、転換に必要な仕組みをつくりやすいともいえないこともない。

こうして取り上げられた各国のエネルギー転換政策を眺めると、驚くほど異なっていることがよくわかる。それぞれの国が抱える歴史や政治の流れに大きく左右されているにしても、これで地球全体のエネルギー問題を解決しようというのはあまりに途方もないことのようにも感じる。また、この対比の中に中国もインドも入っていないのだが、10億以上の国民を抱え年率10%近い成長を維持できなければ忽ち国が崩壊するという恐怖と戦いながら懸命に走っている国に、そのエネルギー政策はおかしいなどと言ってみても聞く耳は持っていないだろう。その成長の恩恵にあずかっているのはどこの国でしたっけ?と冷笑されるだけだ。実にくやしいが。
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