SSブログ

いかにして科学は人の命を救えるか [読後の感想]

7年前の1994年12月26日にインドネシアのスマトラ島沖で発生した地震は、震源の長さ1,000km幅200kmに及び、マグニチュード9.2という巨大なものだった。それに伴う津波はスマトラ島だけでなく、広くインド洋に広がり各地で大きな被害をもたらし、とくに震源に近い街バンダアチェは津波によって根こそぎに破壊された。この地震と津波によって30万近い人命が失われたとされている。人類が経験した最も悲惨な自然災害のひとつといえる。

カリフォルニア工科大学(当時)のケリー・シー(Kerry Sieh)教授は、長くスマトラ島の活断層や巨大地震・津波の歴史や発生機構を研究しており、その研究成果をもとにしてこれから生じるであろう将来の巨大な地震や津波に備えるための啓蒙教育活動を現地で開始したところであった。その活動の成果が災害の軽減につながったかどうかも含め、忸怩たる思いを抱えたままに研究者としての思いをまとめたもの"How Science Can Save Lives"がTIME誌に掲載されている。執筆は災害発生から一週間後、まだ現地の被災の詳細が十分にみえていない状況でまとめられたものであろう。

その中から、要約して紹介したい。

「たしかにアチェの甚大な災害を悲しんではいるが、研究による知見をもとにアチェの住民に対して事前の警告を与えられなかったことは驚きではない。われわれ地球科学者は、自然がその力を災害として人間にもたらすとき、いかに対応すべきかの答えをそこから見い出し社会にひろめていくのが役割である。その歩みは遅いけれど確実にすすんではいるのだ。」

「地震が地殻プレートの動きによって生じるということを知ったのは50年前のことだし、巨大地震が断層に沿って繰り返し起きるということを知ったのもわずか30年前、活動していない断層でも激烈な地震を起こすことがあることがわかったのも最近のことである。地球の動きを知るにも、科学としての発見に至るにも時間が必要だ。地震や津波による災害発生がそのメカニズムとともに体系付けられ、災害を軽減するための研究がようやく動き始めたところなのだ。」

「地球科学者は、『近くで巨大な地質学的変動が起きることを警戒しなさい、ただしそれが起きるのは明日かもしれないし数百年後かもしれない』といったことを人々に納得させることができないでいる。日々の暮らしに追われている人が、しかもそれが途上国であればなおさら、いつ起きるかさえ伝えられない忠告に、たとえどんなにうまく説明されたとしても、素直に耳を傾けるだろうか。」

そしてシー教授(現在はシンガポールの地球観測所に席を置いている)は、最後に次のような重い文章でこの寄稿をしめくくっている。

「あるいは、これまでと同じように、生じた災害に対してその場しのぎの対応を繰り返すのか?
だとすれば、またアチェと同じような悲劇が繰り返されるだろう。」

2011年3月11日、日本で起きた巨大災害は “さらなるアチェ” だったのか。

※本稿は、「2004.12.26 スマトラ-アンダマン諸島地震の特徴と地球科学者の役割」大矢暁、EAJ Information No.123/2005年5月 を参考とした。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

-

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。