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松島を守った浦戸の再生プロジェクト [気がついた]

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5月7日の読売新聞に塩釜浦戸諸島の再生に一口オーナー制度を創設し、広く参加を呼びかけているという記事を見つけて、唐突にあの匂いの記憶が蘇った。

塩釜の水産加工場のきつい魚の匂いに包まれた艇庫に、練習のためほとんど毎週のように通っていた高校時代のことだ。艇庫から4人漕ぎのナックル艇を担ぎ出し、魚滓の漂う貞山堀をすり抜けて、港の石油タンクの立ち並ぶ広い水路へ乗り出す。そこが我らの練習場だ。桟橋とタンク群を横目にしながら、オールが水を掴んできしむ音だけを響かせ、水路を淡々と小型挺が進む。まめで手が硬く固まるほど、ひたすら漕ぎ続けていた高校時代を思い出した。浦戸の島々は、あの練習場のすぐ近くにあった。

宮城県の海岸部は、北の気仙沼から南の山元町に至る広い範囲で津波に襲われ大きな被害を生じた。その中で松島町と塩釜市は津波には襲われたものの、その周辺に比べれば津波の被害が少なかったとされている。理由はいくつかあるのだろうが、松島湾の入口に位置するたくさんの小島(浦戸諸島)が、壁となって津波のエネルギーを減衰させたことが大きかったのではないだろうか。すなわち、松島湾を襲う津波に対して有効な防波堤としてこれらの島々が機能したといえる。しかし、こうして津波を正面から受け止めた島々は、その代償として大きな被害を受けてしまった。島々では、離島であることも重なり復旧が遅れているようだ。電気もその他のライフラインも2ヶ月を経過してもまだまだ回復していない。

浦戸諸島は塩釜の南に突き出る七ヶ浜半島と鳴瀬川河口右岸にある宮戸島の間に位置しており、桂島、寒風沢島、野々島、朴島の四つの有人島と多数の小島より成る。島の主たる産業は漁業で、古くから牡蠣、ワカメ、海苔などの新鮮な海産物を近郊の市場へ届けている。この島の生活の基盤である、漁業と水産加工の施設が深刻な被害を受けている。特に島の周辺を利用した牡蠣棚が壊滅状態で、陸上部では海苔の乾燥機なども使用できない状況にあるという。こうした状況に対して、島の人たちは、支援を待っているだけはなく、自らの再生と復興を加速させるための方策を考え提案している。そのひとつが「一口オーナー制度」であり、その詳細はここにあるが、以下にその一部を引用する。

私たちは、行政・支援団体からの義援金や寄付金をただ待つばかりではなく、私たち漁業者自らの頭で考え、自らの手で操業再開の糸口を掴み、自らの足で歩んで行こうとする自助努力の一環として「うらと海の子再生プロジェクト」を立ち上げました。その目的は、何十年という長い年月を掛け揃えてきた漁業資材・設備等を失い、漁業を辞めざるをえない漁業者に一人でも多く漁業再開の道へと歩んでもらうことです。  操業再開の糸口として「うらと海の子一口オーナー制度」を設けました。一口1万円で皆様から支援金として募り、主に漁業資材の購入・漁業設備の修繕に充てさせて頂き、海産物が収穫できるようになり次第お送りさせて頂きます。お送りする海産物につきましては、殻付牡蠣もしくは剥き牡蠣・焼き海苔・ワカメ等を現在考えております。

浦戸では、牡蠣などの海産物の販売をオンラインで直販する仕組みを震災の前から運用していたこともあり、このオーナー制度への参加はオンライン上で簡単にできるようになっている。この販売サイトに紹介されているTwitterの履歴(@urato_uminoko)を読むと、オーナー制度の立ち上げと支援の拡大が4月の中旬から、徐々にしかし確実に拡大していることがよくわかるし、まだまだライフラインが不十分な状態でも、牡蠣棚の再生に向けて一歩一歩取り組んでいる様子が手に取るようにわかる。

いつまでに復興するとは約束はできないが、集められた支援をもとにして、とにかくがんばるのでずっと見守ってていてくれということだろう。これはこれで、わかりやすいし、繋がりを意識できる上手なやり方だと思う。見られているということが責任を負うことにもなるので、つらいともいえるが励みにもなるのではないか。

浦戸の島々の再生への挑戦は、今回の甚大な震災の中の小さな一つの試みかもしれないし、そこへの協力は全体からすれば限られた効果しかないのかもしれないが、なにより自分たちで考え歩き出そうとする気概がすばらしい。自らが支援を呼び込んでいくんだという強いこころに共鳴する。東北の海が、そして自然が以前の輝きを取り戻す日が一日でも早く来ることを願う。




うらと海の子再生プロジェクト


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