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泥水に沈む街 [気がついた]

220px-Thailand_Topography.pngタイの洪水が止まらない。チャオプラヤ川沿いにタイの北部から徐々に氾濫域が南下し、首都のバンコクにまでついに到達した。連日、TVでも他のニュースソースでもその深刻な状況を流し続けている。例えば読売新聞でも詳細を伝えているが、“大洪水による冠水が広がり被害が長期化しているのは、例年以上に多い降水量と、なだらかな地形のためだ”という説明だけで、この異常な事態、いつまでも好転せず、対策も講じられているかどうかもよくわからない、等等の疑問をすっきりと理解できるだろうか。

実は、いまタイで起こっている洪水の可能性については、世界銀行がアジア開発銀行(ADB)、国際協力機構(JICA)と共同で調査が行われており、ちょうど一年前(2010年10月22日)に報告書「アジア沿岸部の大都市における気候変動リスクと適応」として発表されていた。(世銀のプレスリリースはここ

この調査は、熱帯アジアの海岸に面する巨大都市の気候変動リスク(洪水など)評価を行うもので、ケースとして、バンコク、マニラ、ホーチミンの三都市を選んでいる。いずれも熱帯特有の暴風雨(台風、サイクロンなど)や集中豪雨、高潮の常襲地であり、海岸域の低平地(しかも河口に近い)都市が巨大化することでさらに災害リスクを増大させている場所である。

河口周辺に形成された沖積平地(デルタ)は、都市化の進展とともに地下水の過剰なくみ上げによる地盤沈下が進行するため、温暖化に伴う海面上昇や降雨増大などによる影響をより受けやすくなる。

チャオプラヤ川流域は、その総面積が16万k㎡と広大であり、タイ全土の35%を占めており、しかも極めて平坦で流域の平均標高は1~2mでしかなく、海岸に近いところでは、近年の地盤沈下のために海面下の地域さえ存在する。この流域では近年繰り返し洪水の被害を受けており(1942,1978,1980,1983,1995,1996,2002,2006年)、特に1995年の洪水では複数の熱帯性暴風雨によって上流に設けられた治水ダムの容量を越えたために下流域で広範な氾濫を生じ、12月まで水が退かなかったという。

タイでは、こうした洪水の頻発に対処するため、チャオプラヤ川の治水にこれまで力を入れてきたようだが、結果として、またしても甚大な洪水被害を起こしてしまった。手をつけるべき地域があまりにも広域で、しかもとんでもなく(日本では考えられない)平坦であることが最大の障害になっているということだろう。しかし、アジアの新興国としての発展はそうした対策の遅れを待ってはくれない。平坦な土地に産業が起こり、人が集中し、災害リスクが積み重なっていく。したがってこの洪水の発生は十分に予測できたものであり、決して想定外ではないと言ってよい。ダム制御や排水管理に問題があるという指摘もあるようだが、事象が進行中の現時点ではよくわからない。

世銀の報告書では、タイが取り組むべき課題として、地下水くみ上げ規制、洪水予測精度向上、河川堤防嵩上げ、排水ポンプ増設などをあげており、いずれもいま起きている洪水をすぐに食い止めることにはならないのだろうが、今後手を打たなければ間違いなくこの類の洪水は繰り返されるだろう。今回の洪水は、50年に一度の大雨が最大の原因となっているように伝えられているようだが、原因は相当に根が深いとみてよい。

調査研究がJICAの協力の下で進められたことからわかるように、こうした水災害対策は日本の最も得意とする分野である。おそらく水面下では、防災の専門家派遣など具体的な動きが出ているはずで、こうした局面で本領を発揮してもらいたい。

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