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氷室が創るエネルギー [雑誌記事]

doct_03_img3.jpg「この人に聞く;室蘭工業大学教授媚山政良さんに伺いました」土木学会誌 vol.97 no.4 April 2012 より

媚山氏は札幌生まれの札幌育ち。雪がすぐそばにあり、雪を見て育った。雪国の雪は降るときには美しいが、積もっては邪魔者扱いされる。除雪という言葉にもよけいなものを処分するという意味が込められている。小学校のときに、学校の校庭に雪が山のように積み上げられ、春先に雪が溶け、汚く泥だらけになるのが見ていてとても切なかったという。「もったいないというか、なんだか可哀想だ」という思いが、熱関係の研究者になっても心を離れず、30代後半で研究室の運営をまかされるようになった時に、雪の利用の研究を始めることになった。

最初に取り組んだのは、帯広郊外の幕別での氷室づくり。そもそも氷室というのは、冬にしか得られない氷を洞窟などの冷所に保存しておき、夏に取り出して使うことを目的にして作られたもの。氷室の利用は、古くは日本書紀にも出てくるが、きわめてまれな珍品なので高貴な身分の者にしか与えられることはなかったようだ。その仕組みを現代に蘇らそうという研究である。

幕別の氷室は、150mmの断熱材を入れた倉庫をつくり、その中に雪を貯め、1年中2~4℃くらいの低温に保っておくもの。計算では、部屋の半分くらい雪を入れれば9月、10月まで温度が保てることがわかったが、半分も使ってしまったのでは農作物の貯蔵庫としては失格かと思ったが、農業倉庫というのは収穫時期とのタイミングさえ調整できれば問題がないことに気づき、実用に供しうると判断したという。この氷室は、雪を入れておくだけなので、電気のないところでも1年中運用できるところがミソ。一年を通して、温度が低く、湿度が90%以上のため、野菜の保存に適している。長イモでは、冷蔵庫では1ヶ月で重さが5%落ちるが氷室では10ヶ月で5%しか減らない。ジャガイモにいたっては、冷やすと凍結しないように自分の中で糖分をつくり出し、おどろくほど甘くなるという。

氷室からスタートした研究は、次に「雪冷房」という仕組みに進化する。別の部屋に貯めた雪に送風機で空気を循環させ、対象とする部屋を冷やすもの。氷柱の原理を大型にしたものと言えば簡単だが、雪を長期間貯めておくノウハウと暖風をあてすぎて溶かしきらない工夫がいる。それでもとっつきやすさが評価され、雪冷房を利用した施設は、全国で200箇所以上になるという。特に大きな評価を得たのは、2008年に洞爺湖で開催されたサミットにおいて、留寿都に建設した国際メディアセンターの空調に雪冷房を採用したことだ。施設には、7000tの雪を貯蔵し、合計で93%の熱量が供給されたことが確かめられた。

この洞爺湖の成功がホワイトデータセンター(WDC)構想につながった。このWDCは、単に雪冷房や外気冷房を取り入れるデータセンターに止まらず、敷地内に植物栽培工場と発電所を設けることで、データセンターから出た熱や発電時に出た熱を植物工場で利用し、コジェネを行う。さらに植物工場で作った菜種などの植物燃料をその発電所で使うことでトータルな地産地消を実現するもの。

こうした展開をみると、着々と利用が拡大しているようにも見えるのだが、氷室から出発してここに至るというのは決して容易いことではないように思う。先人の少ない研究領域をコツコツと実績を積み上げているのは、媚山氏の雪に対するこだわりとともに地域のパートナーとの関係を丁寧に作り上げている結果なのではないだろうか。エネルギーの研究というと、先端領域のデバイスの開発や巨大システム、あるいはITとの融合といったアプローチが思い浮かぶが、「雪」をなんとかしたいというたった一人のこだわりが、その後ろに隠れていた可能性を引き出したことに喝采を送りたい。すごいね、エネルギーは奥が深い。




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