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隊列から離れるという挑戦 [講演を聞いて]

第一回日経スマートシティシンポジウム、2012年7月23,24日於東工大蔵前会館を聴いて

パネルディスカッション「環境未来都市、スマートコミュニティの実現に向けた北九州市の挑戦」より

北九州市は環境未来都市に選ばれ、エネルギーの新しい形を自治体として模索し続けている。最近では、実証実験として、電力料金にダイナミックプライシングを導入するなどきわめて先駆的な挑戦をしており(例えば、北九州スマートコミュニティ創造事業など)、この領域ではまちがいなくわが国の先進的役割を果たし続けてきている。今回のシンポジウムでは、特にこの北九州市の挑戦的な活動にスポットをあて、さらに今後の課題を見い出そうというとのが議論のねらいであった。

その議論や事例の内容についてはメディアの記事に譲りたい(例えば日経BPクリーンテックの記事など)。ここではパネルの最初に行われた話題提供で北九州市の松岡俊和氏:環境未来都市担当理事の話が印象に強く残ったので、ここに紹介しておきたい。ただし、録音をとらず会場での簡単なメモと記憶によっているため、言葉の使い方などについては実際と異なっていることがあることはご容赦いただきたい。

北九州は、産業都市としての急速な発展とその負の遺産としての公害を両手に抱え、戦後の経済成長路線の先頭を走り続けてきた。いつしか公害と戦いこれを制することが、この街に暮らす人にとって最も大事なことがらとなっていった。全国的にもまだ事例が少ない中で、自らの身を切り、血を流して取り組んできた。公害という当時の課題を克服したことは街に暮らす人の大きな自信でもあった。そうした街が環境・エネルギーへの新しい取り組みに再び立ち上がることになった。

2008年に国の環境モデル都市に選定されたことが節目となった。21世紀の抱える環境とエネルギーの課題は限りある資源と成長のバランスをどうとっていくかということに尽きる。そうした基本となる理念はよく理解できるのだが、さて、モデルの街に選ばれてみて愕然としたという。アイデアがなにも沸いてこない。国から示された美しいメニューは目には入るのだが、さて北九州でなにをやればよいのか、さっぱり浮かんでこない。

戦後の産業成長と公害を乗り越えてきた経験の深い街なのだから、なにもないはずはないのだが。新しい時代の環境と言われたとたんにやるべきことが思いつかないとは。これは正直、かなりショックだったという。要するに、自分たちの街を遠い将来まで含めて、どんな街にしていくのかという一番大切な命題について、実は真剣に考えてはいなかったのではないか。

新しい課題はこれだよと、お上が示してくれたものを眺めてから思考を逆に回転させることがあたりまえになっていた。これを一言で(自分たちは)「自立していなかった」と松岡氏は厳しく断じている。自らの頭で徹底的に考え抜く、与えられたメニューからお気に入りの素材と料理を選んで事たれりとするような甘えた、ぬるい環境に安穏としていただけではないか、と。

このとき初めて、自分たちの自治体運営が「自治」ではなかったと気づいたと。自分たちの街の将来への設計図を描くことこそが自治そのものであり、行政の仕事なのだと気づいた。その土地の文化や歴史に合った街の姿を描くことは、その土地に根ざした行政官にしかできないのだということを。そして同時に、これができていない自治体が多いということも明らかになったという。

この松岡氏の指摘は、行政の中で挑戦を続けている人の発言だけにきわめて重いものがある。街や大きく考えれば国がどの方向に向かうのかという、市民国民にとってもっとも重要なテーマについて、私たちはいったいどれだけ真剣に向き合い、そして考えてきただろうか。あるいはものごとの本質を突き詰めて考えるといった習慣、くせを、親や先達からしっかり引き継いできただろうか。誰かが描いてくれた美しい絵と言葉に共感し、納得した瞬間に思考を止める。議論はもうこれでおしまいにしよう、考えている暇があったら動け、と。

大事なことは夢そのものではなく、それをどうやって実現するかだ。だから、まず手を動かせ、歩き回れ、汗をかいてはじめて前に進むことができる。こうやってわれわれ日本人はずっと突き進んできたのではないだろうか。明治維新、日露戦争、太平洋戦争、そして3.11。これ以上思考を止めたまま歩き続けてはいけない。

考え続けることによって、問題の本質が解きほぐされ、場合によっては方針の修正や路線の変更さえもあってもおかしくはないはずだが、そういうアプローチは良くない、隊列を乱すなと厳しく叩き込まれてきたように思う、よく考えれば子供のころからそうだった。おい、そこのおまえだ、うろうろせず隊列から離れるな、足並みを揃えろと。



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