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「お迎え」の意味とは [雑誌記事]

“死ぬ間際に目にする風景” 三浦麻子:AERA編集部、AERA 2012.8.27より

仙台の南にある名取市、そこにある在宅緩和ケア専門の医院である岡部医院の院長、岡部健氏がこの記事の中心である。岡部氏は、元は呼吸器外科医、「自宅で最後を迎えたい」という患者の希望に応えるべく、1997年に自ら医院を開いた。多くの往診などの中で、死を間近にした患者が「お迎え」について口にするのをたびたび耳にするようになり、これを単なる幻覚の類として排除するのではなく、人間が自然に死を迎えるときに、実は「お迎え」が大きな役割を果たしているのではと考えるようになったという。

岡部氏は、看護師などの病院のスタッフ、東北大の研究者などの協力を得て、過去10年以上、遺族らにアンケートをとり、「お迎え」現象の解明につとめてきた。2011年の調査では国の補助金も受け、宮城、福島の6診療所の協力で、遺族1191件にアンケートを送付。575件で回答を得ている。この調査では、「お迎え」体験を「終末期患者が死に臨んで、すでに亡くなっている人物や通常見ることのできない事物を見る類の経験」と規定している。「お迎え」体験があったと遺族が答えたのは約4割。この数字は大きすぎるのではないかと疑うほどなのだが、本人の病状が重く家族に伝えられなかったケースもあるので実際にはもっと多いのではないかともみられているという。本当かどうかを確かめる術はないのだが、半数の人に「お迎え」が見えるとは...

アンケートによれば、「お迎え」に最も多く登場するのは、家族など縁深い人物で、既に亡くなった人。この真意は亡くなった本人にしかわからないが、半数の遺族には、「お迎えが」来て安らかになったように見えたという。調査にあたった社会学者の相澤出氏も、現象を恐れたり怪しんだりせず、「亡くなっていく過程の自然現象として受け入れていいのでは」と語っており、「お迎え」が見えた場合に医師が認識の調査をすると、意識の清明な(混濁していない)場合も多いという。

岡部医院で働く成田憲史さんは、最初は「お迎え」なんて信じられなかったが、「お迎え」を見ている患者をたびたび目にするうちに考えが変わったという。

すぐそばを指さして『ほら、そこにいるでしょう』と患者さんが言うのを初めて聞いたときには、本当に驚きました。私には何も見えませんでしたから。そういうことが度重なるうちに、患者さんには見えているのだろう、と受け入れるようになりました

末期にある患者の心が何に開かれているか、あるいはそのことが末期医療にどのように織り込まれていくべきなのか。「お迎え」が投げかける課題は静かに深い。

さて、ここまでの内容の記事であれば、緩和医療の視点から見た「お迎え」の意味の発見といったことなのだが、この記事の真髄は実はこの後にある岡部医師へのロングインタビューにある。

在宅緩和医療の第一人者で、十数年にわたり「お迎え」の調査に取り組んできた岡部氏は、いま自らががんを患い、自宅で在宅緩和ケアを受けている。東日本大震災後は被災地の支援にも取り組んだが、今年に入り容態が悪化した。その中での「あの世」と「お迎え」についてのインタビュー。大変に鮮烈な内容で心を撃つ。その一部をここで紹介したい。

昭和20年代は、ほとんどの病人が自宅で亡くなっていました。家族は死んでいく人をみとるのが当たり前でした。病院で死ぬ人と自宅で死ぬ人の割合が逆転したのは1976年。今では病院が8割を占めます。本来、病院は病気を治す「医療」を受けるところ。もう治療する手段がないとなったら、自宅に帰って最期を迎えるべきです。「死」は自然現象なのですから。米国など外国では病院で死ぬのは半数以下。日本でも、患者本人は、本当は自宅で死にたいというケースが少なくありません。 なぜ、自宅で死ねないのか。ひとつは、みとる家族が、肉親の死を避けようとしている。見ているのがつらいという。だが、祖先たちはそのつらさを乗り越え、死を受け止めてきました。逃げ出してはいけない。死んでいく肉親をみとることは、いずれ来る自分の死を受け止めることにもなるのです。” 中略 “もう治療ができないのであれば、今まで生きてきた自分の歴史に包まれた自宅に帰り、普通に飯を食い、糞をし、寝る。だんだん食べられなくなり、「ぼちぼちかいね」と思っていると。お迎えが来て、この世からあの世へ行く。それなら死は怖くない。



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