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ゲームチェンジャーとしての天然ガス [エネルギー]

“Natural gas, Difference Engine: Awash in the stuff”, Babbage, The Economist, May 4th 2012, by N.V. | Los Angeles より

以下は、英エコノミスト誌に掲載された記事の概要をまとめたもの。(精密な翻訳ではない)
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水圧破砕方式の採用によって、米国ではシェールガスが地に溢れ、天然ガス価格は5年前の4分の一に下落した。いまのペースで天然ガス会社が増産し続けると、米国中の貯蔵庫はこの秋までに満杯になる。現在のスポット価格では、ガス生産者は完全に豊作貧乏に陥っている。このままでは、懐に余裕のある巨大企業しか生き残れない。

2000年には、米国の天然ガス埋蔵量はわずか12年だったのが、シェールガスにシフトしたことで、それが100年にまで拡大した。しかも、既開発井からの採掘量も予想したようには減少しないことから、実質上の埋蔵量は倍にもなるとの見方も。

米国は、国内で消費する石油の半分以上を輸入しており、その消費する石油の3分の2は輸送用途に使われているので、技術的な問題はさておき、論理的には天然ガスの最大マーケットは“クルマ”ということになる。輸送分野において、もしガソリンから天然ガスに転換することができたら、例えばブラジルのようにガソリン車からCNG(圧縮天然ガス)車に転換してしまえば、米国は外国産石油に依存する必要がなくなる。

価格要素だけでなく、環境への影響も低く優位性は高いが、現行のクルマでそのままCNGを使うには安くはない変換器が必要だし、何よりガスタンクが多くの空間を占有するため利便性が失われる。米国で唯一CNG向けに開発された専用車は、ホンダシビックGXのみ。弱点はパワーが低めなことと、やはり一般車より割高なこと。しかし燃料費はシェールガスのおかげもあって相当に安い。そしてなによりクリーン。EVやPHVなみのクリーンさだ。

しかし、なにより不利な点はCNG供給所が圧倒的に少ないこと。全米でガソリンスタンドが12万ヶ所なのに、CNGスタンドはわずか1千ヶ所。CNG車は、小型車よりバス、トラックなどの大型車に向いているという評価から既に全米で11万台以上の地域バスが稼動している。天然ガス価格の低下に伴って、割高なディーゼルトラックを採用している運送会社はCNG車両への転換に動きつつある。

運輸分野以外の産業でも天然ガスの価格低下の影響が拡大している。ダウケミカル社は、中東に計画していた石油化学工場を米国内に変更した。安価なシェールガスが、化学産業に新しい競争力をもたらした。まさに“ゲーム・チェンジャー”として、産業の若返りと雇用の国内回帰をもたらしている。

電力分野では、石炭火力から天然ガス火力発電へのシフトが加速されている。価格低下が続くガスによって、安価な電力の代表であった石炭火力の発電単価は、ガス発電の2倍になっている。昨年時点では、全電力の45%が石炭火力、ガスが24%だったが、今後石炭火力の30%をガス火力に転換していくことで、電力価格を10年は維持あるいは減少させることが可能と評価している。

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米国のシェールガスはバブル状態でこの後が心配だという論調の記事は多いのだが、それにしても天然ガスの価格低下がゲーム・チェンジャーで産業と雇用拡大の切り札だとまで言われてしまうと、正直引いてしまう。原発が全機停止し、必要な最低限の電力さえも賄えないかもしれないとざわついているわが国の現状を考えると、これはもう考え方を根本からひっくり返さない限り、国が成り立たないのではないか。いまから70年前に、ABCD包囲網によって南方の資源を絶たれた時の行き詰まり感とやはり似ているところがあると認めざるをえない。ここからどう知恵を出せるか、国民に進むべき道を指し示せるか。政治の責任がますます大きく重い。





再生可能エネルギー法の修正点 [エネルギー]

8月26日参議院本会議において「再生可能エネルギー特別措置法」が成立した。法の成立に菅さんがその進退をかけたという話は、いずれ何年か後に菅という政治家が歴史の評価を受けるときに採り上げればよい諸々のエピソードの一つにすぎない。いま考えるべきことは、どんな法律ができあがり、それがこれから日本の社会にどのような影響を与えていくか、だからどんな行動をとるべきかということであろう。

再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)については、自民党政権下で検討が始められていたものが、2年前の政権交代で現政権に引き継がれたという経緯がある。経済産業省の審議会で政権交代時の中断後、ほぼ1年間をかけて検討が進められ、この結果を踏まえて法案としてまとめられたものが、あの3月11日の午前中に閣議決定された法案である。その日の午後に震災に襲われたこともあって、この法案は実質的にたなざらし状態となり、菅内閣の命運とともに日の目を見ず葬り去られるかと思われていたが、7月になって一転して表舞台に登場し、会期末ぎりぎりで成立にいたった。

法案については、産業界特に経団連は強く懸念を表明しており、例えば米倉会長は7月19日の毎日新聞の取材に対して「法案が成立すれば、電気料金が上がり、安定した電力が供給されなくなる恐れがあり企業は海外に出ざるをえなくなる。」と述べ、さらに「このままでは国破れてソーラーありという世の中になる。」とまで、恫喝とまではいかずとも、まあ言いたい放題である。

確かに、法案では買取価格の詳細やその判断方法、見直しの手続きなどには踏み込んでいないなど、これは考えかたを示した理念法あるいは単なる枠組み法なのかと思わざるをえないようなところがあり、詳細は霞ヶ関で決めますからと言われているようで、このままでは、仮にすうっと成立しても、将来に禍根を残しかねないなとは感じていた。

国会審議、とくに法案可決の成否は野党が握っていたが、その鍵を握る自民党は、産業界の反対意見に配慮するかのように、初めにエネルギー基本計画の見直しありきであり、基本が曖昧な状態で買取という個別の施策を先行させるべきでないと述べるなど、法案の成立には否定的な雰囲気が強かった。それが、党内のエネルギー特命委員会において「今このタイミングで、一歩踏み出すことは、この分野における日本の産業競争力確保の面からしても、意義がある」との意見が集約され、法案に必要な修正を加えることで成立をはかることとなり、その結果、民主・自民・公明の各党による法案修正が合意された。

法案の修正の中で特に目立つものをあげると、

1.買取の価格と期間
 ・発電設備の区分のほか、設置の形態及び規模ごとに定める
 (太陽光は40円20年、その他は一律20円15年といった荒い決め方はしない)
 ・半期ごとに価格等を定めることができる
 (状況に応じて柔軟に見直す)
 ・適正な利潤を勘案する
 (公益事業としてわきまえるべき水準)
 ・発電設備の所管に応じて農林水産、国交、環境の各大臣に協議
 ・第三者によって構成される調達価格等算定委員会の意見を尊重
2.発電の認定
 ・調達期間にわたり安定的かつ効率的に発電することが可能であること
 (安かろう悪かろうの排除)
3.サーチャージの特例
 ・製造業の場合には、製造業平均原単位の8倍を越えると最大8割減免される
 ・東日本大震災の被災者はゼロ
4.調達価格等算定委員会
 ・5人の委員によって組織され、この人事は国会の同意事項。
 ・委員会は公開
5.施行
 ・平成24年7月1日から
6.利潤に関する配慮
 ・施行から3年間を普及加速期間とし、買取価格など特別に配慮
7.見直し
 ・エネルギー基本計画の変更されるごと、または少なくとも3年ごとに見直し
 ・2020年度末までに抜本的見直し

あいまいであったところのいくつかが修正され、現時点でのベストではなくともベターな解には近づいたように見える。政治的に多くの妥協の産物だとしても、この混乱期にとりあえずここまでたどり着いたことには敬意を表したい。おそらく、3.11とフクシマがなければこうはならなかったのではないか。官からも民からも広く知恵を集め議論を重ねる、こういうプロセスこそが、いわゆる「政治主導」なるものと思いたい。

しかし、すべてはこれからだ。第三者委員会の構成はどうなるのか。エネルギーに対する国としての方針が不明瞭なままで、突っ込んだ議論が本当にできるのか。そもそも新しい内閣(あるいは首相)は、この課題をどう位置づけるのか。等々、考え出すときりがないが、この法律の成立が日本の再生へのきっかけの一つとなり、東日本の被災地の復興にも大きく貢献できることを信じたい。

太陽光発電促進付加金とは [エネルギー]

hokden_fukakin.jpgこの4月から、電力料金の請求書に「太陽光発電促進付加金」という項目が新たに加わった。電力会社の説明によると、各家庭の毎月の電力使用量に促進付加金単価を乗じたものが付加される。東京電力の場合には、0.03円/kWh、月の電力使用量が300kW程度の標準的な家庭の場合、この負担は10円くらいの金額になる。なあんだそれくらいか、というのが普通の感覚かもしれないが、この仕組み制度は電力会社のHPにはあるものの、しっかりと宣伝・説明されているようには思えない。

この制度は、2009年11月にスタートしたもので、住宅の屋根に設置された太陽光発電設備によって生み出された電力から、自家消費分を差し引いた余剰分の電力を電力会社が買い取り、その費用の総計を「太陽光発電付加金」として電気を利用するユーザーが使用電力量に応じて負担するもの。まだまだ太陽光発電の普及が進んでいないことと、発電したすべてではなく余剰分のみの買取のため、いまのところ負担感は少ないはずだ。

この付加金の単価は、地域ごとの太陽光発電量の総和と利用者数のバランスで決まるので、電力会社によって異なった値となる。最高は九州電力の0.07円、最低は北海道電力の0.01円と実に7倍の開きがある。太陽の豊かな南の地域ほど太陽光パネルの設置と利用が進んでいることが反映しているのだろう。

この制度は、太陽光に代表される再生可能エネルギーの普及を促進することを主眼としており、設置時の設備導入費用の補助に加えて、10年間の継続した奨励策(インセンティブ)を講じるもので、いま菅総理の重点法案の一つにあげられている、「再生可能エネルギー固定価格買取法案」の先駆けともいえるものだ。

これから審議される新しい法案の、先の制度との大きな違いは、太陽光を含む主要な再生可能エネルギーによって発電された電力を、余剰分だけではなく全量買取ることを電力会社に義務づけようとするところだ。ただし、この法案ではそうした大枠は定めるものの、具体的な買取り価格やその期間については明示していない。これらの諸条件は、政府が諸事情を勘案して毎年見直して設定するということになっており、どちらかというと枠組みを規定する法律といえるかもしれない。もっとも、その大きな枠組みが大事なのだが。

そうした理由で、法案の形だけから国民の負担を計るのは難しいのだが、政府(資源エネルギー庁)でこの制度を検討する過程で議論された価格等の条件などによると、太陽光パネルの価格と施工費等からなるコストをベースに再生可能エネルギーの導入が進んでいるドイツなどの事例を参考として、(議論の幅はかなり大きいが)価格は概ね40円/kWh、期間は20年程度を想定しているようだ。

この設定で制度がスタートし、10年程度経過した時点での再生可能エネルギーの導入量を我が国の総発電量の5%(現状は1%未満)にまで拡大できたとすると、世帯あたりの負担は200円(家庭用は余剰買取)から500円(すべて全量買取)程度と見込まれている。2020年代のできるだけ早い時点に自然エネルギーによる電力の比率を20%(水力を除けばほぼ10%と倍増)に引き上げたいとする菅首相の目標を達成するためには、単純に考えれば倍の負担が必要になる。標準家庭で月額400円から1,000円の負担増となると、月額電力量の6%から14%となり、これでは軽微な負担とは言えなくなる。ちなみに、ドイツでは、2009年の時点で一世帯あたりの負担額は3ユーロ(400円弱)であるが、電気料金自体は化石燃料の高騰に引きずられてさらに上昇しているため負担感は少ないとされている。

しかし、10%まで普及が進むのには、多くの時間と手間が必要だ。環境先進国のドイツでさえもその水準に達するにはほぼ10年を要している。これから先、電気エネルギーを取り囲む環境がどう変わるか、それを見込んで我が国のエネルギー政策はどうあるべきかということから考えれば、この負担の考え方も当然変わってくる。

まずコストの面では、再生可能エネルギー普及の方針が制度化されれば、市場が形成され拡大し、資本も流入する。その結果として競争が促進されてパネルやインバーターなどの部材も設置費用も緩やかに低減していくことが期待できる。一方で、石油石炭・LNGなどの化石燃料に依存する従来型の電力は、新興国需要の増大と資源枯渇によって価格が上昇することは避けられない。

日本では、原子力発電によってそうした価格上昇も吸収していたところもあったのだが、これからは原子力というカードに大きな期待はできなくなるとすれば、緩和策としての役割は他に求めなければならない。ドイツでは、こうした低減と上昇の二つの曲線が交わる、いわゆるグリッドパリティの時が、目前にある(あと5年くらい)という前提でエネルギーの主役交代など多くの施策が論じられている。わが国でも少しでも早期にそうした議論ができるようにしなければ、この10年の遅れは取り戻せない。



「水のまち」都留の水車 [エネルギー]

山梨県の都留市、大きな発電水車を見学することができた。

平成16年に市制50周年を記念し、「水のまち」都留のシンボルとして、またクリーンなエネルギーとして期待される小水力発電の普及啓発を図ることを目的に、市民参加型で小水力の発電所が設けられた。発電で生じる電力は市役所が供給先になる。

小水力発電とは何か?大規模なダムなどによって川をせき止め、大きな位置エネルギーを利用して大規模な発電を行うものと異なり、河川の水を「そのまま」使うことで発電を行うもの。当然、環境に対する影響も大規模ダムに比して少ないが、生み出せる電力も大きくはない。しかし日本のように多雨でかつ地形の起伏が大きいところでは、雨からも川の流れからもエネルギーを取り出さないまま海に下り、やがて消えてしまっている。海に注いでいる川の流れ、その一部でも簡易な施設を設けることによって電力に変換し利用しようというのが小水力発電。これまでは事例も少なかったが、地域で作り地域で使えるクリーンなエネルギーとして各地で注目が集まっている。

都留市では、市役所前を流れる家中(かちゅう)川に、最大で20kwの発電能力を有する直径6mの木製水車を設置し、常時(日中)は市役所の電力として、また夜間や休日等の市役所が軽負荷の際にはRPS法により売電を行い、庁舎使用の電気料と二酸化炭素排出量の削減を目指したもの。
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写真ではスケール感がわかりにくいが6mの直径の水車が回る様は迫力がある。もっとも電力を得ることだけが目的ならばもっと小型の装置もあるそうだが、市民にむけたシンボルとしての役割に重きを置いたためクラシックな水車が採用された。水を受ける羽が木製(松材)であることも環境親和性を感じさせる。

発電所の建設には国の補助金も使われているが、市民参加型の公募債(つるのおんがえし債)が募られ、これが建設費の概ね3分の一を占めていることは大きな特色になっている。都留市では、この発電所に続いて2号機を設置しており、二つの発電施設で市役所の使用電力の3,4割をまかなえるという。

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